『ばいばい、アース』(冲方丁・ISBN:4048732463)

ばいばい、アース〈上〉
ばいばい、アース〈下〉

冲方さんの二作目で、散々取り上げてきた「ばいばい、アース」の感想ですよ〜。
正直なところ、これはすごいと思います。自分は、冲方さんの作品では、「マルドゥックスクランブル」や「微笑みのセフィロト」といったSF物のほうが好きで、ファンタジーの方はちょっとパワー落ちるかなーと思っていたのですけど、これはもう、最高でした。
沢山の種族、例えば月瞳族キャッツアイズ(猫+人間?)とか、水角族ミノタウロスとか、長耳族ラビッティア  (兎+人間?)などの沢山の種族がいる世界で、周りの誰とも同じ種族でなく、だけどどこか似ている部分を持つ、一人ぼっちの人間という種族の少女が、自分の由縁を知るために旅にでるというお話で、雰囲気としては「不思議の国のアリス」とか、「十二国記」に近い感じです。(最後の方は漫画版のナウシカっぽい感じ)
特に特筆すべきは、上にも書いてあるとおり、沢山の種族や、甲樫花ゴブレット(乗り物用の亀)とか死告鳥レイブン水媒花さかな などの生き物、果てはユリ科の鋼や 剣苗 スパーデといったような、不思議なモノで構成された世界観です。そういった不思議なものに対する説明はまったくなく、それがこの世界なんだなーという感じで、ファンタジーの世界に思いっきり投げ込まれます。セリフやルビ、人物や世界の構成も完璧なまでに幻想的で、もうめろめろです。沢山の色彩豊かな宝物が、たっぷり詰め込まれていて、これぞ本当のファンタジーという感じ。本当に一つ一つのパーツに魅力があって、かつ、それを包む世界も、中身を損ねずに、一緒に輝いている。もうひとつの世界がそこにあるのです。
ただ、あまりに作者が頑張りすぎているせいか、ついてけない人はついていけないかもしれません。特に下巻はちょっと大変で、止揚とか実存とかの哲学用語が混ざってきて、上巻のファンタジーたっぷりとは違い、(何故か)SFも混じった難しいお話になってきます。登場人物たちは理解しているのだけれど、読者は結構置いてけぼりな感じです。深く考えれば理解可能ですけど、さらっと読みたい人にはつらいハズ。なんか下巻は作者の哲学したあとが見られる、そんな感じです。ぼくはそういうの覗き見するの嫌いでないので、楽しめましたけど、ちょっとやりすぎかもしれません。
でも、それも冲方さんの味なのかなーとも思ったり。やりたいことを思いっきりやりっぱなしな感じ、自分の中の世界を、そのまま表現することに命をかけてる感じです。荒木飛呂彦さんにちかい感じかな?まぁ上巻だけで、おなかいっぱいなほどすばらしい出来なので、多少わかんなくたっていいのだー。
とゆーわけで、読んだことない人は、上巻だけでも読んで欲しい!きっと下巻も読みたくなるし!……思いっきり手にはいりにくいですけど、とりあえずでっかい図書館へゴーです。日本でここまでファンタジー物を書ける人は、なかなかいないんじゃないかなぁ。埋もれさせておくにはもったいないですよ。文庫化してくださいお願いします。
余談ですけど、冲方さんは女の子を主人公にするのが好きなのでしょうか。他の作品でも少女が何かに立ち向かう、頑張るっていうのが多い気が。
さらに余談。自分の中では、ベルのイメージは、ピルグリム・イェーガーのアデールで固定されてました。人物とも世界観ともぴったり。ちなみにアドニスは、ベイグラントストーリーの敵の方のシドニーでした。あの人すごい好きなのですよ。なんかを背負っているところとか、痛々しさとか、両手が〜のところとか、そっくりですなー。

    評価:★★★★☆