No.36

「ぼくらよりもはるかに倫理性の高い人間集団を考えるんだ。ぼくらは現に大気汚染や森林破壊を引き起こして、地球とぼくらの子孫に多大のダメージを与えている。倫理性の高い人々から見れば、ぼくらのやっていることは極悪非道だ。(中略)ということはつまり、ぼくらは便利さのためには人の命を犠牲にしてもなんとも思わない連中なんだ。だから、もし現在のぼくらよりも倫理性が高くて、便利さのために人の命を犠牲にするなんてとんでもないと思うような人たちが多数派だったら、現在のぼくらはナチスやオウムと同じような極悪非道なものとみなされるはずだよ。でも、どういうわけか現実はそうではない。どうしてだと思う?」
「どうしてなの?」
「理由なんてないさ。たまたま人間の大部分がその程度にできていただけのことさ」
    (永井均・『翔太と猫のインサイトの夏休み』・ISBN:4888482896

たまたま、とか言われて、足もとがぐらぐらする感じがたまらない、です。
一応解説をしておきますと、「何が倫理的に善いか」についての議論で、オウムやナチスは本当は倫理的ではないのか?実は私達から見て倫理的じゃないだけなのではないか?ならば……というお話です。はるかに倫理性の高い人間という仮定と、最後のインサイトの台詞がいい味出てます。