No.63

「しかし、この世の誰も自分の意思のままにまっすぐ生きていくことなどできないものだ。どんなものでも、流されて、転がって、思いも寄らぬ出会いに足元をすくわれて、思い描いていた人生の道からは外れていくものだ」
「――ふん」
「だから、あんたはいまいちだっつーのよ――飛鳥井仁」
「一度や二度の失敗やら挫折やらで、それ以上なにも失いたくないとか、甘っちょろいことを思ってるから、あんたは運命に舐められて、手詰まりになってんのよ」
「運命、か――」
「統和機構の中枢も、あるいはそんなことを思っているのかも知れないな……。」
「私は」
「そんなものに降参するのはまっぴらだからね。あんたたちは勝手に"運命なら仕方がない……"とか好きなだけ嘆いているといいわ」
「九連内さん、君をすごいとは思うが――羨ましいとは、やはり思えないな」
「そいつはお互い様でしょう?」
    (上遠野浩平・『ビートのディシプリン SIDE3』・ISBN:484027780)

考え方の違う二人の静かな対立。九連内さんの態度も魅力的ですが、飛鳥井さんの生き方のほうが、なんとなく好きです。この長い引用でポイントなのはやはり、「君をすごいとは思うが〜」のくだりでしょう。