No.65

「飛行機馬鹿は親父譲りで、頑固なのはお袋に似たかもしれねぇけどよ。俺の手はどうも、あんたに似たみたいだぜ、ボジェット」
そういって翳された手が、しっかり工員の顔をしているのを見て、ボジェットは堪えきれずに泣いた。育ての親に遠慮したのか、扉が閉まる音がする。すっかり滲んでしまった視界にその後ろ姿を見送って、ボジェットは天井を見上げた。天井がなければ、空が見られるのにと思う。
「行け、トウジ。私たちの息子」
掠れる吐息にまぎれた餞の言葉は、扉の前でじっと立っていた男の耳には届かなかったけれど、その背を温かく押して、彼に力強い一歩を歩ませた。
    (橘早月・『オーバー・ザ・ホライズン 僕は猫と空を行く』・ISBN:4840227896

育ての親に対しての、別れの言葉です。すごい心に残るとか、ジーンとくるわけではないのですけど、ほどほどにいい感じです。最初のせりふだけ注目していたのですけど、その後の文もがんばってますね。