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No.68

「死ぬのって怖い?」 「前は怖くなかった。ずっとそうなるってわかってたし。それに、体がきついとね、生きてるのが嫌になっちゃうの。疲れちゃうっていうか。もういいやってね、そう思えてくるの。死ってそんな遠くにあるわけじゃないし。ずっとそばにいて…

No.67

僕たちはちっぽけだ。 まあ、当たり前だけどさ。わかっちゃいるさ、もちろん。時の流れをどうこうできるどころか、僕にはひとりの女の子を救うことさえできない。 せいぜい女の子を笑わせることができるくらいだ。 それだって、かなり難しい。 怒らせてばっ…

No.66

「俺とガンドールの人間がここに現れた理由については、俺たちが一番よく理解している。そして、お前たちも同じぐらい正確に理解していると信頼している。この業界は信頼が大事だからな。手を差し出すときは相手の強さと誠実さを信頼し、拳を叩きつける時に…

No.65

「飛行機馬鹿は親父譲りで、頑固なのはお袋に似たかもしれねぇけどよ。俺の手はどうも、あんたに似たみたいだぜ、ボジェット」 そういって翳された手が、しっかり工員の顔をしているのを見て、ボジェットは堪えきれずに泣いた。育ての親に遠慮したのか、扉が…

No.64

キーワードは"例外"かも知れないと思う今日この頃。何の話かというと、いろいろな話なのだが、人はいつもと同じを求めつつ同時に"例外"をいつも探していて、その矛盾があれこれの混乱につながっているんじゃないか、とか。孤独も嫌だが埋没もいや――そんな最…

No.63

「しかし、この世の誰も自分の意思のままにまっすぐ生きていくことなどできないものだ。どんなものでも、流されて、転がって、思いも寄らぬ出会いに足元をすくわれて、思い描いていた人生の道からは外れていくものだ」 「――ふん」 「だから、あんたはいまい…

No.52

「……武士は喰わねど高楊枝ってやつさ!」 「わあ、アイザック、武士だったんだね!ハラキリだね!」 「そうさミリア。武士は喰っても切った腹から全部出ちまうんだ。だから何を喰っても無駄っていうわけさ!無駄なことはしないで耐え忍ぶ。これが武士のスタ…

No.61

「いいか、マリア。日本刀が連続で切れるのは数人が限度――血と脂にまみれて、あっという間に切れ味を失っちまう……」 神妙な表情になって、マリアに顔を近づける老人。 だが、その顔を即座に笑顔へと変えて、ひとつの結論を断言する。 「――そんなのは、きっと…

No.60

「おまえさ、人としじみのどっちが偉いか知ってるか?」 「人に決まってんだろうが」 「馬鹿か。いいか、人間の知恵だとか科学は、人間のためにしか役に立たねえんだよ。分かってんのか?人間がいてくれて良かった、なんて誰も思ってねえよ、人間以外はな。…

No.59

私の仕事は、この街を朝に描き変えること。 (川上稔・『創雅都市 S.F』) 本の中では、まったくそのままの意味なのですけど、ちょっと妄想すると面白みのある台詞です。

No.58

「火のないところに煙は立たないって言いますけど……」 美紗は思い切って言ってみた。少し失礼だったか、と思いつつ。 「完全燃焼すれば、煙は立ちませんけれどね」 紅子は言った。 (森博嗣・『月は幽咽のデバイス』・ISBN:4062736985) 森さんの作品が理系…

No.57

「つらいことがあったなら、少なくともその分は、幸せになっていいはずです。僕はそう思いますし、そうあって欲しいと願ってます」 「……おとぎ話とは違って、この世界はそういうふうにはできていないかもしれません。でも少なくとも、僕の手の届く範囲では――…

No.56

「――君のような人間は、生きてる方が興味深い」 (上遠野浩平・『ソウルドロップの幽体研究』・ISBN:4396207859) そのあとの、「君らは――私などよりも、自分達のほうをこそ、知らないままなのさ――」という台詞もいいですけど、あえてこっちで。これぞ上遠野…

No.55

「君たちは、"生命"というものをどう考えている?」 「……いの、ち――?」 「君たちは生命を持っているわけだが――例えば、それが絶対的な危機に遭遇したときに、何を使って生命を守ろうとするか、ということだ。その姿勢だ」 「生命を守るのに、生命を使う姿勢…

No.54

十というのは、もともと大してきりの良い数ではない。十二などに比べれば、その差は歴然である。たまたま、人類の指の数と同じだったばかりに、世の中にこれほど君臨することになったのだ。いわば成り上がりものの数字である。ちょうど十個あるな、十人いる…

No.53

「あたしはね、裕一を教育してんの」 「教育?」 「そう、現実って怖いよ。気をつけないと、すぐ足元をすくわれるんだから」 里香がいうと、その言葉はやけに鋭かった。まるでガラス片のように。下手に触ったら、手が切れそうだ。 (橋本紡・『半分の月がの…

No.52

なあ、里香。 オレはおまえが一番大事だよ。 世界よりも、自分よりも、大事だよ。 もちろん、僕はそんな言葉を口にしたりはしなかった。心の中で、まるで呪文のように唱えただけだ。そう、言わないほうがいいのだ。こういうことは、そっと胸の奥にしまってお…

No.51

僕は空を見上げる。冬の空に、いくつもの一等星がキラキラと輝いている。東の空に半分の月がゆっくりゆっくり昇ってくる。 (橋本紡・『半分の月がのぼる空 2』・ISBN:4840226067) すばらしい表現だーとはいいにくいですけど、この本の題名に関する文章が、…

No.50

「では、ただの無謀だ。若者はとかくそれを勇気と勘違いしがちだがね。 「そうかもしれません」 「でも、それらを区別する線は、あなたに引かれたくない」 (高殿円・『銃姫 2』・ISBN:484011126X) このあとに続く掛け合いや地の分もよいのですけど、長い…

No.49

〔うんっ。ありがと。お兄ちゃん、大好きっ!〕 〔ぐぼぁぅ……っ!お、教えてもおらんのに、いつの間にそんな必殺奥義を……!必殺技に対するこの勘の冴え、末恐ろしいほどじゃ!もはや間違っても巌男などとは呼べぬ!〕 (佐藤ケイ・『ロボット妹』・ISBN:4840…

No.48

「……俺とおまえの決定的な違いが、わかったよ」 「俺は自分の立場に拗ねた。おまえは開き直った――それだけだ」 (渡瀬草一郎・『空ノ鐘の響く惑星で 4』・ISBN:4840227586) クライマックスでの主人公とその兄の会話から。二人の境遇とか、心とかが端的に表…

No.47

だが、エンジュはそれだけのことで、こんな危険を冒したわけではない。報酬に眼が眩んだわけでもなく、名誉がほしかったわけでもない。 それならば、何故―― エンジュは内心で苦笑した。 よくわからない。だが、イリスたちに再開した時に、話せることが増えた…

No.46

「私は希望という言葉が好きではない」 「私は大好きです」 「希望という言葉は得てして、半分より確率が下回る場合に使われる。希望という言葉の裏には、本来ある確率に人の希望や思い込みが上乗せされている」 「それは弱虫さんの台詞ね。あなたみたいに失…

No.45

「では何をしている。君はいまそこで、いったい何をしているんだ」 「生きてます」 「迷って、悩んで、落ち込んで、それからほんのちょっと喜んで、温かくなって、それからまた迷い始めます。そんなふうに心の中にある感情をひとつひとつあげていけばきりが…

No.45

小生、かなり慎重に言葉を選んでエッセイを書いた。読んだ人の心が浄化されるような神秘的なものを目指した。しかしなぜか完成した文章には「首を吊る」とか「樹海に行く日をいつにしようか迷う」とか「その人は処刑に関する本を僕に貸してくれた」とかいう…

No.44

「避けられるのっ!?」 「……避けるさ」 ジルは敢えてそれに応じた。自分でも信じてはいなかったが、黙したままでは、或いはできないと口にすれば、その瞬間に見放される気がしたのだ。……運命から。 (海原零・『ブルー・ハイドレード〜融合〜』・ISBN:4086301…

No.43

「マカロックさん、あなたにはもう新しい家族がある。たくさんの使用人もいる。上流階級のおつきあいもある。広い家も仕事もある。みんなみんな、それぞれの立場があってあなたを必要としているんでしょう。でも…」 「あなたを本当に必要としている人は、あ…

No.42

「少年よ!君は今、幸せか!?」 「……えっ」初対面で幸せかどうかを尋ねられたのは初めてだったので、透はうまく対応できず、ただ目を丸くしてその女性を見た。 「幸せか!?」と、女性はさらにパクパクしている羊を突き出してきた。 透は、羊の頭越しに操者であ…

No.41

人間は、一人一人がまったく違った意味の生き物。 ただ種が同じだけというコトを頼りに寄りそって、解り合えない隔たりを空っぽの境界にするためだけに生きている。 (奈須きのこ・『空の境界』(下)・ISBN:4061823620) おそらく、『空の境界』の題の由来…

No.40

「神様、か。いるところにはいるのかもな、そういうの」 (奈須きのこ・『空の境界』(下)・ISBN:4061823620) なんか気が抜けてていい台詞だと思いました。神様を否定するでも肯定するでもなく……。